唐長十一代目 千田堅吉は50年以上に渡り、唐長当主として唐紙制作に従事した経験の中で唐長文様について今の言葉で説明します。
霞の種類は大中小あって、これは小さい霞雲である。昔から霞たなびくと歌に詠んだり、
春霞と言ったりと春の夕空に見かけるうっすらとした横引きの雲をそのように呼んだ。
昔の人は今よりもっと、ゆっくりとした時間を持って自然を愛でていたのだろう。
呼び名の通り朽ちた木を雲に見立てた文様である。
雲文様の形は多種に渡って多くあるが、
新しい雲の形をと思う時にふと思いついた文様がこのような見立ての文様であったり、
当初からユーモア的に考えて作られたのかもしれない。
よく見ないと分からないほど、線描きの雪輪が隠されている。
この文様を大きな襖面に使った場合はなおさらである。昔の人は騙し絵のような描き方を好んだらしい。
仕事がら若い頃から目にして来た文様だが、初めは雪輪が潜んでいるとは思わなかった。あとで文様名を知ってなるほどと納得したのである。
満開の梅が梅林の中に咲き誇っている。梅の優しい香りが漂って来るようだ。そして大胆な枝振りは呼び名の通り、琳派文様に属する。
琳派は江戸中期の光悦や宗達の独特の豊かな装飾性の表現が断続的に近代まで影響をもたらしたユニークな芸術である。
同じ光悦のころの創業の唐長もこれら琳派の影響を受けた文様が今も多く保存されている。
細くとんがった小枝が冷たく、氷梅とはいかにもと言える。一般の大きな襖より地袋や小屏風などの小さなものによく合う。
季節感があるようだが、唐紙は平面的な特徴を持っていて図案として見ると、そうでもない。
前述の小さいものにさりげなく使うと、ふと見た時に氷梅の愛らしさが際立つ。
江戸時代に彫られたこの板木の裏書きに京都御苑にあった大宮御所の御局部屋の襖に使われたとある。
このように枝梅の文様を丸く納めた丸文は当時は専ら、お公家さんの襖によく使われたようだ。
今では一般住宅の襖にも使われるが、部屋の間仕切りなどにはまっている梅の丸の襖を見ると、やはりどこか品があって優雅である。
唐長11代目 千田堅吉のプロフィール
1942年、京都府生まれ。
1965年、京都工芸繊維大学卒業後同年、化学商社に入社。
1970年、唐長に入店。以後6年間を唐紙製作の修行。
1976年、唐長11代目を継承。
1994年 日本伝統文化振興賞受賞
1999年 国の撰定保存技術保持者認定
2012年 旭日双光章受章
2021年 唐長当主を次代に継承
著書:2000年「唐長の京からかみ文様譜」
2005年「京都、唐紙屋長右衛門の手仕事」ほか